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静岡地方裁判所沼津支部 昭和53年(ヨ)301号 決定 1979年4月11日

債権者 加藤晃

債権者 小笹正夫

右両名代理人弁護士 福地明人

同 沼澤龍起

同 細沼賢一

同 小川良昭

同 西山正雄

同 小林達美

同 藤森克美

債務者 小泉・アフリカ・ライオン・サファリ株式会社

右代表者代表取締役 小泉和久

右代理人弁護士 石川秀敏

同 阿部昭吾

同 内田文喬

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

理由

一  債権者らは、「債務者は別紙物件目録記載の土地につき、樹木の伐採、移植、塀及び道路の設置、池の掘さく、建造物の建築工事等一切の工事をしてはならない。」との裁判を求め、債務者は、「本件仮処分申請を却下する。」との裁判を求めた。

二  本件申請理由の要旨は次のとおりである。

(一)  債権者らは、いずれも「富士箱根愛鷹の自然と生活環境を守る会」(以下、「守る会」という)に所属し、債権者小笹はその代表幹事、債権者加藤はその幹事である。債務者は、動物園の経営を目的とする会社で、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)上に、ライオン、トラ、ゾウなど合計三五〇頭の動物を放し飼いにし、料金を徴して観客に見物させる所謂自然動物公園の建設を計画している。

(二)  債権者らを含む地元住民は、債務者の右自然動物公園建設計画には、将来同公園が開園された場合において、動物や入園者、従業員が排せつする多量のし尿等が同公園地下に浸透し、付近住民の飲料水源となっている地下水脈に混入する危険があることや、同公園に向う多数の来園者の車両により、裾野市、御殿場市等の一部に交通麻痺が起る可能性が高い等の深刻な問題があることから、近隣市民団体や労働組合等を糾合して前述「守る会」を結成し、債務者との間で協議、折衝を行なった結果、昭和五三年初めころ、債務者から、「話合いの結論が出るまでは着工しない」との確約をとりつけた。

(三)  しかし、同年六月二二日、債務者が右確約に反して大規模な植物の移植工事を開始したため、「守る会」では同年七月一日、右確約違反の着工に抗議するため、工事現場付近において集会及びデモを行ない、その後、債権者らを含む各市民団体等の代表二〇数名が債務者の須山事務所を訪れ、予め連絡を受けて同事務所に居合わせた債務者の取締役である申請外草間喜代美に対し、抗議の意思表示をするとともに、債権者両名と債務者の代理人である同取締役との間で、債務者のためにすることを示して、「即刻、移植工事を中止するとともに、債権者らと債務者との間で今後話合いを継続していくが、その結論が出るまで、樹木の伐採及び移植、塀及び道路の設置、池の掘さく、建造物の建築工事等一切の工事をしない。」旨の合意(以下、本件合意という)をし、その趣旨を文書にしたうえその末尾に債権者両名及び草間取締役においてそれぞれ署名、押印して確認書とした。而して、債務者は、その後今日に至るまで、全く誠意ある話合いをしようとしないから、債権者両名は債務者に対して、本件合意に基づく不作為請求権を有するものである。

(四)  仮に、草間取締役に本件合意をするについての代理権がなかったとしても、

(1)  債務者は同取締役に対し、債務者を代理して日常の対外的折衝事務を行なう権限を与えており、債権者両名は、本件合意をした当時、同取締役にその代理権があると信じたものであるところ、(ア)債務者須山事務所には、以前から所長として沢地善一郎がいたにも拘わらず、わざわざはるかに上司である本社の取締役たる草間を配置し、これまで専ら同取締役に債権者らとの折衝を行なわせ、債権者らに対する諸通知も同取締役の名で発せられていたこと、(イ)本件合意をした際、同取締役は債務者本社と数回に亘って電話による連絡をとっていることなどからして、債権者らにおいて同取締役に本件合意をするにつき代理権があると信ずるについての正当の事由があり、

(2)  或いは、(ア)債務者は債権者らに対し、本件合意をした後、その合意に基づく話合いの申入れを行ない、(イ)その結果開催された昭和五三年七月二二日の話合いには、債務者の副社長を含む取締役が数名出席し、冒頭、申請外草川健次取締役より、「合意が草間名義でなされていることに関連し、社の意向を代表して同人名で会社の基本的考えを申上げる。」旨の発言があったこと、(ウ)本件合意をした後しばらくの間、実際に工事が中止されたことなどの事実から、債権者において草間取締役の行為を明示又は黙示に追認したと認められる。

(五)  債務者は、本件合意は草間が「守る会」の一団に強迫され、意思の自由を完全に喪失したか少なくとも不当な威圧のもとになされたものであって、無効か取消し得べき意思表示に該当すると主張するが、そのような強迫の事実はない。むしろ、(ア)当日、須山事務所には債権者らからの予告を受けて、草間の外四名の社員が待機しており、(イ)付近路上では警察のパトロールカーが警戒に当っていたうえ、(ウ)須山事務所内には債務者社員により請じ入れられ、(エ)草間らは自由に社員同志話合い、また、本社と数回電話連絡をとりあったり、話合いの模様を写真撮影、録音等していたものであって、(オ)確認書の用紙は草間自ら進んで提供し、(カ)確認書の文言中には、草間の要求に基づいて書き込んだ部分があり、(キ)話合いの時間は一時間足らずであることなどの諸事実に照らせば、草間は、自由な意思による選択のもとに本件合意をしたものと認められる。また、債権者らが取消しの意思表示を受けた事実もない。

(六)  ところで、債務者は、前記七月二二日の話合いにおいて今後は本件合意を無視して工事を続行するとの態度を宣明し、以来今日まで、債権者らと誠意ある交渉をしようとしないばかりか、昭和五三年九月末ころから、一方的に本件土地上の植物を伐採し、道路の設置、大規模な汚水貯留池の掘さく工事を再開している。本件土地は、火山灰堆積地、熔岩地であり、表土層が極めて薄く、一旦樹木を伐採し、土地を掘さくするなどすれば、原状に復するには今後数百年の歳月を必要とし、また費用も莫大なものを要し、原状回復は事実上不可能となることが明らかである。よって、本件申請に及んだ。

三  債務者の答弁の要旨は次のとおりである。

(一)  本件合意は、「守る会」なる団体が主催した抗議行動のあと、その代表と称する者約三〇名が須山事務所に押し寄せ、同事務所にいた草間との間で無理矢理結んだものであるが、このような事実経過から見ると、本件合意の債権者側当事者は、明らかに「守る会」であって、債権者ら個人ではないのであるから、本件合意をしたことを理由としながら債権者ら個人を申請人とする本件申請は、当事者適格を欠く不適法な申請であり、また、本件合意の当事者でないものからなされたものとして、却下を免れない。

(二)  債権者らの主張のうち、債務者が本件土地上に自然動物公園の建設を計画していること、「守る会」の懸念する問題点について同会との間で数回懇談、協議の機会を持ったこと、昭和五三年六月二二日、植物の移植作業を開始したこと(但し、開始するにつき「守る会」に予告してある)、同年七月一日、草間が確認書と題する文書に署名、押印したこと及び同月二二日、「守る会」との間に懇談、協議の機会を持ったことは認める。同主張のうち、昭和五三年初めころ、「話合いの結論が出るまでは着工しない」との確約を与えたこと、草間に本件合意をし、或いは日常の対外的折衝事務をするについての代理権を与えたこと、草間が確認書作成当日、債務者本社と電話連絡をとったこと及び七月一日以後、工事を中止したことは否認する。

(三)  また、草間のした合意自体についてみても、本件合意は次のとおり、強迫によってなされたものであり、草間において意思の自由を全く欠いていたため当然無効であるか、或いは、意思表示をするについて瑕疵があり取消し得べきものである。即ち、当日、債権者らを含む「守る会」の一部の群衆約三〇名が須山事務所前に蝟集し、サファリ建設反対の街頭演説やビラ貼付等の活動を行なった後、事務所責任者に面会を求めてきた。たまたま事務所にいた草間が応待に当り、代表者五名と話をしようと申出たところ、債権者らはこれを無視し、草間ら債務者社員の制止を振切って、全員が事務所内になだれ込んだうえ、同人らの退路を断ち、これを取り囲んで同人らを事務所内に監禁し、口々に大声で罵詈雑言を浴せかけるなどして工事の中止を迫った。草間は、当初自己に工事を中止するかどうかの権限がないことを説明してこれを拒否していたが、約二時間に亘って監禁されたうえ大声で怒鳴られ、殊に、「確認書にサインするまではここを出ない。」とか、「サインしないと困ることが起るよ。この人たちは石油コンビナートをつぶした人たちだ。」などと強く迫られて、やむを得ず、債権者らが一方的に作った確認書に署名することを余儀なくされたものである。債権者らは、退出する際、当日の事務所内の模様を撮影、録音したフィルムやテープの提出方を強要し、その場でこれを感光させたり、持ち去るなどしているが、この事実からも、債権者らが当時加えた威圧の程度がいかばかりであったか容易に推測されるのである。

而して、草間は、昭和五三年七月二二日の「守る会」との協議の席上、これを取消す旨の意思表示をした。

(四)  右のとおり、草間が署名、押印することを余儀なくされた確認書は、工事の開始、中断等の問題について何らの権限を有しない同人と、自然動物公園が建設されたからといって何ら法律上の利益を害されることのない「守る会」との間で作成されたメモに類する文書であり、この確認書の作成されたことを根拠とする本件申請は理由がない。

四  当裁判所の判断は、以下のとおりである。

(一)  まず、債務者は、本件申請は当事者適格を欠き、また、本件合意の当事者でないものからなされたもので却下を免れない旨主張するが、債権者らは、本件合意は個人としての債権者両名と債務者の間で結ばれたものであるとして本件申請に及んでいるのであるから、本件申請自体不適法なものということはできないのみならず、疎明資料によれば、本件合意は、債権者ら主張のとおり、債権者両名が個人としてなしたものであることが認められるから、この点において、本件申請を却下することはできない。

(二)  当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、次の事実を一応認めることができる。

(1)  債務者においては、昭和四七年ころから、富士山麓にある本件土地上に自然動物公園を建設することを計画し(小泉・アフリカ・ライオン・サファリ富士自然動物公園建設事業)、以来、用地の確保を図ったうえ関係行政機関に対して許認可の申請や必要事項の届出等を行なった結果、昭和五二年八月一六日、静岡県知事より土地利用事業の実施計画の承認を受け、さらに、昭和五三年一月二六日には、同じく静岡県知事より都市計画法第二九条の開発行為の許可を受けるなど所定の許認可を得て、直ちに建設工事に着手することが可能となった。

(2)  他方、右建設計画のあることを知った計画地周辺の住民の間において、計画には、動物や入園者のし尿等の地下浸透による地下水の汚染やマイカー等が公園に殺到することからくる計画地周辺都市における交通渋滞並びに地震等災害時において猛獣が逃走する心配があるなどの問題点があるとして、地元の自然を守る会や労働組合を中心として「守る会」が結成されるに至ったため、債務者においても、「守る会」に対して右問題点に対する対策を十分説明し、その納得を得たうえで着工する方針をとることとした。そこで、着工に先立ち、両者の間で、昭和五二年一〇月、同年一一月、昭和五三年三月の三回に亘って説明、協議の会合が催されたが、債務者は、ついに、「守る会」の納得を得ることができなかった。

(3)  しかし、計画の実施には、その前段階として計画地内に自生する貴重な植物の移植作業が必要であったことから、債務者は、移植の適期を逃さず作業を進めるため、右の如く、いまだ「守る会」の着工についての了解をとりつけないまま、昭和五三年六月下旬、移植作業を中心とする作業にとりかかった。

(4)  ところで、申請外草間は、計画が本格的に進行を始めた昭和五二年四月、地元の事情に明るいことから、主に交通対策と諸官庁への陳情等を担当することとして債務者に入社して取締役に就任し、爾来、債務者の須山事務所に常駐して右業務に従事する傍ら、併せて企画開発次長の申請外矢田部俊幸らとともに、前記「守る会」との会合の日時、場所の設定等その下準備作業にも従事してきた。

また、債権者小笹は、「守る会」の代表幹事として、「守る会」の中でも指導的役割を果たしてきたものであり、債権者加藤は、「守る会」の幹事で、「守る会」側の窓口として前記会合の設定等の下準備作業に従事してきたものである。

(5)  「守る会」では、債務者が、前記のとおり、移植作業を開始したことを知るや、これがかなり大がかりに行なわれたこともあって、債務者の従来の態度に反する一方的な工事開始であるとして、直ちに、抗議行動を起すこととし、昭和五三年七月一日、会員約四〇〇名の参加を得て、計画地付近で、集会とデモを行なった後、同日午後三時半ころ、債権者両名を含む「守る会」を構成する各団体の代表約三〇名が、須山事務所を訪れた。債権者らは、同事務所内において、居合わせた前記草間及び矢田部に対して、集会で採択された抗議文を読上げて渡すなどの抗議行動を行ない、同日午後五時過ぎころ、同事務所を引上げたが、その間、後記確認書が作成されて、これに草間及び債権者両名が署名、押印するに至ったものである。

(三)(1)  ところで、前記の確認書とは、疎明資料によれば、当時進行中の移植工事を即時中止するとともに、今後「守る会」などとの話合いの結果、何らかの結論が出るまでは、一切の工事をしないということをその内容としており、債権者らにとっても、債務者にとっても、極めて重要な文書であることは言うまでもなく、単なるメモ的文書と見ることはできないものである。殊に、債務者においては、その文言どおりに拘束されるとした場合、開園の目処はおろか工事の予定すら立てることができなくなるに至る可能性があるから、こうした約束をするについては、債務者の内部で取締役会の決議を経るなど慎重な手続をもって検討する必要があることは、容易に認められるのである。

而して、疎明資料を精査しても、債務者において、従来、草間に対して、「守る会」との間で工事を開始し、或いは、一旦開始した工事を中止するなどの重要な事項について、交渉を行なう権限を与えていたとの事実は、全くこれを見出すことができないし、また、《証拠省略》によれば、当日債権者らが、須山事務所を訪れた主な目的は、債務者に抗議文を手渡すことにあり、債務者との間で、本件の如き合意を行なうことまで予定していたものでないこと、従って、債務者に対して、その旨事前に予告してあった訳でもないことが認められるから、これに照らせば、債務者において、債権者らの来訪に備えて、予め、草間に、本件工事の進行に関して交渉する権限を授与する機会があったものと推認することもできないのである。よって、草間に代理権があったとする債権者らの主張は、理由がない。

(2)  そこで次に、草間に債務者の表見代理人と認むべき事情があったかどうかを検討するに、なるほど、草間は、就任以来、須山事務所に常駐して、債権者ら主張の如く、対外的折衝事務をその所管事項として、これに従事してきたものではあるが、その実質を子細に見れば、その事項は、前認定の如く、諸官庁への陳情を主内容とするものと認められるのであって、これと併せて、「守る会」宛に通信を発し、或いは、債権者ら「守る会」の窓口となっている人たちと折衝したといっても、それは、副社長、開発本部長等本件計画の責任者が出席する説明、協議会に向けて、その日時、場所の決定、テーマの設定、資料の送付をする等、本会合のための下準備作業の域を出ないものと認められ、草間において、債務者を代理して法律行為をなす権限が与えられていたものとは、到底認めることはできない。また、疎明資料によるも、草間が、本件合意をするについて、債権者らを前にして、債務者本社と電話による連絡を取りあった形跡は、これを認めることができないばかりか、かえって、同資料から、確認書に署名するに至るまでの間、草間自身、自己に工事を中止することを決定する権限はなく、従って、本件合意をする権限もないことを、債権者らに向って、明言していたことが認められるのであって、これらの事実に照らせば、債権者らにおいて、草間に代理権があるものと信ずべき正当な事由があったものと言えないことは明らかである。そうすると、表見代理に関する債権者らの主張も理由がないものと言わざるを得ない。

(3)  次に、債権者らは、前記二(四)(2)記載の各事実から、債務者において、草間の行為を追認したことが認められると主張するので、この点につき、さらに、判断する。

疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。即ち、債務者本社においては、草間が、前記のとおり、確認書に署名、押印した旨の報告を受けて、昭和五三年七月三日、早速、その間の事情を調査するとともに、善後策を検討した。その結果、本件確認書は、草間に代理権がなく、また、「守る会」の一団の多数の強迫により、草間が、無理矢理署名させられたものであるから、何ら法律的効力を有しない文書であると確信するに至ったが、その見解を、「守る会」に通告する方法について、あれこれ考究した末、本件確認書の内容から見ても、「守る会」の側に、債務者との間で近々協議の場を持とうとする意思のあることが認められるので、その協議会を早急に開催し、その席上、確認書問題についての債務者の前記見解を表明するとともに、併せて、今後の債務者の方針等につき説明するのが妥当であるとの結論になった。そこで、従来どおり、草間から「守る会」に対して、話合いの申入れを行なうことになり、同月五日、一〇日、一四日、一八日、二一日の数回に亘って、草間から右申入れの通知がなされ、結局、同月二二日、裾野市内の富士見台公民館において、「守る会」側から、代表約四〇名、債務者側から、副社長都築俊三郎、開発本部長横倉真司、総務担当草川健次及び草間喜代美ら各取締役を含む約一五名が出席して、説明、協議会が開催された。以上のとおり認められる。

ところで、債権者らは、草間名義の右話合いの申入れ書に、「確認書に基づき」話合いの申入れをする旨の記載のあることをとらえて、追認の意思表示がなされたものと主張するのであるが、右文言は、前記のとおり、当時、「守る会」の側においても、協議の場を持とうとする意思のあることが、確認書の文言から推察されるため、草間において、これを引用したにすぎないものと認められるから、このことから、直ちに、草間によってなされた本件合意の全体について、債務者が追認したものと判断することは、到底できないところである。

さらに、債権者らの主張のうち、七月二二日の協議会の冒頭、草間からなされた発言を指摘する部分については、疎明資料によれば、その発言内容は、確認書に対する債務者の見解と、今後の工事の進行等についての債務者の基本方針を、確認書問題の当事者であり、かつ、当日の話合いの機会の設定者である草間になり代わって述べたにすぎないものと認められ、発言の全体を精査しても、本件合意を追認する旨述べた部分はなく、かえって、これを白紙撤回する旨明言して、その効力を否定しているものと認められるから、右発言をもって、追認の意思表示と見ることは、到底不可能であり、また、本件合意のなされた後、実際に工事が中止されたとの点については、疎明資料によっても、これを直ちに肯認し難いのみならず、たとえ、移植作業が、そのころ、行なわれなくなったとしても、その理由は、疎明資料からみれば、むしろ、当初予定していた移植作業が、右時季においてほぼ完了していたためと認めるのが相当であり、債務者が、本件合意に従って作業を中止したものとは、認め難いところである。

(四)  以上の次第であるから、債権者らの本件仮処分申請については、その被保全権利が認められないこととなり、かつ、保証を立てさせて、その疎明に代えることも相当でないから、右申請を失当としてこれを却下することとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 太田昭雄 裁判官 若原正樹 裁判官伊藤紘基は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 太田昭雄)

<以下省略>

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